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ラヴェンダーと修道院・再 ((セナンク(仏))


(恐らく、手前のガレキみたいな所に修道士たち自ら
この修道院を建てたと思われます。如何に大変な
作業であったことが偲ばれます)

さて、再びセナンクに戻って来ました。
上からのショットを御覧下さい。写真の右側(つまり建物前面)にラヴェンダーの
畑が広がっています。

以前、私はこのラヴェンダーを見るために再訪したと書きましたが、実は
そんなノンキな記述を恥じ入るばかりです。これは、このセナンク修道院
の根本の精神に触れる重要な事なのです。

セナンク修道院は、もともとシトー会の修道院です。そしてこの修道院は
「聖ベネディクト会則」を実践しようとしたのです。
その会則は自らの手で労働することを規則としたのである。つまり「自足
し、労働することが真の修道士である」としたのです。


ラヴェンダーを修道院に導入したのは、ビンゲンのヒルデガルトであると
いうことが、たまたまamさんの記事で分かりました。
このヒルデガルトという人(中世の女修道士)は優れた神秘神学者にして
薬学につうじた医学者でもあったそうですが、そういった歴史があったの
ですね。改めて、話題を共有できるというブログの力に感じ入った次第です。
(上記am様のブログはhttp://blog.goo.ne.jp/amsel8/
薬草について一つ賢くなりました)

このセナンク修道院は、このラヴェンダーの油を販売することによって
今でも、この修道院を維持しているのです(勿論それだけではないでしょうが)
改めて修道院の精神はいまでも生きていることを思い知ったのです。
(参考:今野国雄・修道院・岩波)



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Pirvs Lvdens

上から見た修道院は初めてみました。周囲の雰囲気やシトー会建築の特徴がよくわかります。

シトー会は基本的にベネディクト会則を採用(さらに「愛の憲章」も)した点ではベネディクト会やクリュニー会と同じでしたが、それまでの修道会と異なるのは「祈る人」と「働く人」を明確に分離した点です。ベネディクト会則では「祈り、働け」として修道士も各人に相応しい手仕事を行うことが義務でしたが、シトー会では手仕事を助修士(『粗い石』では納戸僧と訳しています)に委ね修道士は祈り専門となりました(著述や写本挿画などは修道士が行ったようです)。『粗い石』に記されているような特殊な事情でなければ修道士は「働く」ことには参加せず、開墾などの事業は助修士の成果でした。
この分離がシトー会を急速に発展させる原動力となります。

ベルナルドゥスの死後、早くもシトー会には弛緩していきました。開墾と多数の寄進により富の蓄積が起こったことと無関係ではありません。
カタリ派が南仏で勢力を伸ばしたとき、最初シトー会がカタリ派対策を担当します。前に紹介したフォンフロワドはその最前線基地(要塞化されている)だったわけですが、当のシトー会院長はカタリ派のような清貧な生活に程遠く、改心させることは出来ませんでした。
この状況をみた一人の修道士が、カタリ派以上の徹底的な清貧生活を実践した上でカタリ派を改心させていこうと考えました。ドミニクス、後のドミニコ会です。

アルビジョワ十字軍(この十字軍が起こった直接のきっかけは教皇から対カタリ派全権使節に任命されていたフォンフロワド院長ピエール・ド・カステルノーが暗殺されたため)がカタリ派の立て籠もるベジエの町を包囲し、やがてカトリックの住民もろとも虐殺してしまうのですがそのとき次のような話が伝わっています。虐殺中ある騎士が、カトリックとカタリ派の区別がつかない、と言うとそこにいたシトー会士は「(カタリ派であれば地獄に、カトリックであれば殉教者として天国に)神が分けてくださる。汝は気にせず続けるが良い」。

前置きが長くなりましたが、ビンゲンのヒルデガルトが出てきたので。
カロリング時代のライヒェナウ修道院長ヴァラフリート・ストラボの作品に『ホルトルス』(小さなハーブ園)という詩集があります。
詳しいことはリンク(まだ未完成)のところにありますが、修道院とハーブの切っても切れない関係は千年以上続いています。

前に紹介した古楽アンサンブル、セクエンティアはヒルデガルト・フォン・ビンゲンの音楽作品全集(CD8枚組!)を出しています。
残念ながらセナンクで録音していないのですが(その代わり他のロマネスク聖堂を使用)、讃歌や聖歌から劇作品まで様々でした。

平凡社から刊行された「中世思想原典集成」はよく利用する資料です。
後期ラテン教父(5巻)、ヌルシアのベネディクトゥスの「戒律」(ベネディクト会則)その他を収録
前期スコラ学(7巻)、ペトルス・アベラルドゥス、ペトルス・ウェネラビリス等の著作を収録
修道院神学(10巻)、クレルヴォーのベルナルドゥスその他の著作を収録
女性の神秘家(14巻)、ビンゲンのヒルデガルトその他の著作を収録

長々と失礼しました。
by Pirvs Lvdens (2006-10-14 13:07) 

イソップ

中世からの伝統が今もまだ受け継がれている、こういうヨーロッパの風景にあこがれます。
by イソップ (2006-10-14 14:23) 

春分

ラベンダーはフレンチ種ではないですね。
製油を取るのにふさわしいタイプのようです。なるほど。
by 春分 (2006-10-14 14:24) 

yoku

イソップ様
このような景観はプロヴァンス特有のような気がします。
by yoku (2006-10-14 18:18) 

yoku

春分様
いわゆる北海道のラヴェンダーとは違うのでしょうかね?
by yoku (2006-10-14 18:20) 

yoku

Livdens様
祈る人と働く人を分けたというお話ですが、まったく知りません
でした。それとシトー会の弛緩の話はクリュニュー会と同じ
轍を踏んだようなものですね。その他カタリ派やドミニコ会の
お話も興味しんしんです。最後のハーブのHPいつもながら
斬新で、鮮やかです。あやかりたいものですが、自分には
無理な様です。いつもありがとうございます。
by yoku (2006-10-14 18:35) 

yoku

plot様
いつもniceありがとうございます。
by yoku (2006-10-14 18:37) 

yoku

Pirvs様
追伸
ビンゲンは作曲家でもあったのですね。その才能には
感嘆します。その作品は聴いて見たいものです。
そういえば、宗教音楽は5世紀ごろからあると
ききますから、彼女の作品が聴けたとしても不思議では
ないのですね。その他、中世思想原典集成のお話
参考にいたします。ありがとうございます。
by yoku (2006-10-14 18:53) 

am

わぁ~、すごくすてきな写真ですね!デスクトップの背景にさせていただきました。こうして上から見ると、あたりの感じがいっそう伝わってきます。URLをご紹介いただきましてありがとうございます。(原因を発見しました。さいごにある数字のところ、「18」でなく、アルファベットの小文字のエル「l 」 と数字の「8」です。まぎらわしくてご迷惑おかけしました)。

yoku様は、歴史のなかに先入観なしに無垢で立たれ呼吸なさっているわけですよね。そういう体験は、ものすごく羨ましいです。

Pirvs様のコメントも勉強になり、感謝しております。ブログの力、ほんとうすごいですね。こちらはブログ初心者なので落ち込むことが多いのですが、励みになりました。ありがとうございました。
by am (2006-10-14 19:46) 

am

追伸 : 今になって、失礼なことになってしまったのかしらと、かたまっております。お写真から、歴史が生きている様子が伺えて嬉しくなり、触れさせて頂いたのでした。これからもすてきな写真を楽しみにしております。
by am (2006-10-14 21:43) 

yoku

am様
失礼とは、とんでもありません。
お陰様でうまく行きました。ありがとうございます。
ところで、上記のpilvs Lvdens 様の名前をクリック
しますと薬草のすばらしいHPが御覧になれます。
ご案内まで。これからも宜しくお願いします。
by yoku (2006-10-14 21:55) 

yoku

ザッキー様
Minovsky様
いつもniceありがとうございます。
by yoku (2006-10-15 05:03) 

Pirvs Lvdens

前の文に間違いがありました(おわびです)。
前に紹介といいながらセクエンツィアについては紹介していませんでした。
セクエンツィアはケルンを本拠地とする古楽アンサンブルで、最近はカロリング時代のグレゴリオ聖歌のCDを出しています。
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン没後900年(1998)の企画で出したのが8枚組の音楽全集です。

録音はアメリカの教会なども入っていますが、クネヒトシュテデンのプレモントレ会修道院やケルンのザンクト・パンタレオン修道院聖堂でも収録しています。
ザンクト・パンタレオンはオットー朝の数少ないモニュメントですが、ヒルデガルトの聖歌の録音はオットー2世妃テオファヌの墓前で、吟遊詩人の歌(別のCD)のときはエンポーレで、とこまかな場所までかなりこだわっています。

差し支えなければ、8枚組を買ってだぶってしまったCDがあるので差し上げますがいかがでしょうか。
「おお、エルサレム」(献堂式の宗教作品集)と「血の声」というタイトルの国内盤(現在店頭にはありません)で共に上記ザンクト・パンタレオンでの収録でした。

ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの音楽はその他に、映像作品がDVDで出ています。ロマネスク時代の作品をロマネスク聖堂で収録した映像としては今のところ唯一のDVDなのでたいへん貴重です。DVDはBBCが制作した「ヒルデガルト・フォン・ビンゲンのポートレート」というタイトルで、神秘劇『オルド・ヴィルトゥトゥム』(悪魔の誘惑と克服がテーマ)と、ヒルデガルトに関するドキュメントで構成されています。劇はイギリスのロマネスク聖堂で収録されています。

ヒルデガルトの膨大な著作から医学、植物関係を抜き出した翻訳が出ています。
「聖ヒルデガルトの医学と自然学」(井村宏次監訳、ビイング・ネット・プレス、2002年)

ラベンダーについては、「ラベンダーは最強の香りが持つ力とその激烈な芳香の持つ有益性を備え持っている。ラベンダーはあまたの強い邪気を抑制するので、この作用によって悪霊を恐れさせる」(上記40頁から引用)と記されています。

現在ヒルデガルトのいたビンゲンには当時の修道院はなく、代わりにずっと後に設立された聖ヒルデガルト修道院(聖堂は20世紀のネオロマネスク)があります。
by Pirvs Lvdens (2006-10-15 18:57) 

Lily

ポプリの講習会に出たとき修道院が医療のためにハーブを栽培していた
話を聞きました。現在まで連綿と続いているとは、信仰の深さを感じます。
昨日の能の舞台も連綿と続いている日本の伝統芸能です。
by Lily (2006-10-16 08:57) 

ty-ortho

う~~ん、このブログは来訪者のレベルの高さに驚くばかりです。
実際に観光旅行に行くよりもよっぽど知識が増えそうですね。
yakuさん(さまは堅苦しいのでやめときますね)の情熱が人をひきつけるん
でしょうね
すばらしいことです。ベネディクトやらクリュニューやらアップしたい話題がたくさん出ていますが、ここはマイペースに行きたいと思います。
次はなんでしょう、楽しみだな。
by ty-ortho (2006-10-16 21:18) 

yoku

Pirvs livdens 様
色々と貴重なお話ありがとうございます。
音楽については、勿論のことラヴェンダーのお話(香りが悪霊
をおそれさせる云々)は非常に興味ある話です。
最後にグレゴリオ聖歌についての温かいお話、お言葉に
甘えてよろしいでしょうか。oyoku@tb4.so-net.ne.jp
申し訳ありませんが、上記あてご連絡、頂ければ
幸いです。とりあえず、お願いまで。
by yoku (2006-10-17 00:16) 

yoku

Lyly様
ボブリ講習会でのお話、能のお話といい、Lylyさん(さんづけで
失礼)の趣味の広さには感心致します。
by yoku (2006-10-17 00:25) 

yoku

ty-ortho様
色々なお話を頂戴し、嬉しい限りです。
本当にブログの良さ(月並みな表現で済みません)
をつくづく感じます。
by yoku (2006-10-17 00:34) 

1枚目の写真、何とも言えぬ風情があって、とても素敵ですね!
ビンゲンのヒルデガルトに関わりがあると知ると、興味が一段と増します。
僕は、種村季弘『ビンゲンのヒルデガルトの世界』しか読んだことがないのですが、ヒルデガルトはとても興味深い人物だと思います。
by (2006-10-17 20:31) 

yoku

lapis様
ありがとうございます。
上から見ると確かにこの場所の雰囲気が
分かりますね。
ビンゲンのヒルデガルトですが、中世にとって
この人の存在は大きいみたいですね。
といってもこの人がセナンクとは直接関わりがあった
かどうかは分かりません。ラヴェンダーを修道院に
導入したということらしいですが、説明不足ですみま
せん。
by yoku (2006-10-19 04:58) 

yoku

kitazawa様
はじめまして。niceありがとうございます。
by yoku (2006-11-01 05:08) 

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